彦山権現霊験ばなし(その2)


 長門国の伊作市という所に津田茂右衛門という者がいた。数年の間、今でいう精神病で、一族の者は医療をつくしあらゆる神仏に祈願したがききめはない。親族の中で彦山に連れて行こうという者があって、茂右衛門と一緒に宿坊常歓坊へ泊まった。その夜、茂右衛門は、自分が国で悪事を働いて死罪になるところを老僧が救ってくれた夢を見て、それを一族の者に話した。一族の者は、病気のせいだろうと相手にしなかった。ところが、神前に参り祈願をしているうちに、それまでのことがうそのように正気にもどり、喜んで国に帰った。家族は神恩を感謝し、その後彦山に年参りをするようになり、一族は繁栄した。